極東少数民族地域研究部門

極東少数民族地域研究部門

主にロシア極北・極東を中心としたシベリア-北方ユーラシア地域全般に暮らす先住(少数)民族の伝統文化と現代の生き方、地域コミュニティーとの協働による文化交流の実践を通じて言語と文化の研究を推進しています。
これらの先住民族は、20世紀にはソ連という社会主義政治・経済体制の下で生活・文化全般にわたり変化を蒙り、ソ連解体後は市場経済化や文化・社会のグローバル化といった荒波を経験つつあります。言語の危機的状況や民族そのものの盛衰、あるいは存亡のかかった危機的状態下にある人々と言ってよいと思います。同時に、彼らの伝統的世界観、生活様式、生業形態等を分析してみると、日本民族あるいはその中や周辺に存在してきた諸民族との共通な側面も多数見出すことができます。この地域の民族研究の多くはこれまでロシアを含めた欧米主導で進められてきましたが、このような見地からも、私たち日本という立ち位置からこの地域の諸民族文化を解釈・研究する重要な意味があると言えるでしょう。

メンバー・スタッフ

吉田睦(YOSHIDA, Atsushi)
千葉大学文学部教授(ユーラシア民族文化・社会論)

カムチャツカの少数言語研究

ロシア・カムチャツカ半島には古くからイテリメン、コリャークなどの先住民族が暮らしています。イテリメンはかつて「カムチャダール」と呼ばれ、伝統的に漁撈・採集を生業としてきた民族です。隣接するコリャーク語、アリュートル語、チュクチ語、ケレク語と系統関係があると言われてきましたが、イテリメン語はこれらの4言語とは大きく異なり、その同系性については疑問が残っています。当センターではイテリメン語の言語学的研究を行っており、その独特な文法や近隣諸言語との関係の解明を目指しています。

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イテリメン語復興のためのワークショップ
(2012.6,マルキ,カムチャツカ)

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犬ぞりレース
(2007.2,チギリ,カムチャツカ)

プロジェクト一覧

  • イテリメン語辞書編纂プロジェクト(アラスカ大学・コネチカット大学との共同研究)
    Collaborative Research: Comprehensive Itelmen [itl] Dictionary (NSF, BCS #1263668, 2013-2016)
  • イテリメン語のドキュメンテーション(アラスカ大学・コネチカット大学との共同研究)
    Integrated Audio-Visual Documentation of Itelmen [itl] (NSF, BCS #1065619, 2011-2014)
  • 「イテリメン語の語彙データベース構築と比較研究 --系統・接触問題の解明に向けて」(科研費,基盤研究C, 2011-2014)

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イテリメン語語彙データベース

本データベースは、科研費「イテリメン語の語彙データベース構築と比較研究―系統・接触問題の解明に向けて」(基盤研究C, 研究代表者:小野智香子,課題番号23520493,2011-2015年度)の研究成果の一部です。

イテリメン語語彙検索システム

  • Lexicon search:イテリメン語の語彙を、英語、日本語、ロシア語、イテリメン語から検索できます
  • Syllable structure search:イテリメン語の音節構造をC(子音)とV(母音)の組み合わせで入力し、語頭、語中、語末でマッチする音節構造の語彙を表示します

イテリメン語辞書ページ

IPAを元にしたラテン表記のページと、ロシアで使われているキリル表記のページに分かれています。

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極北先住民のトナカイ牧畜

トナカイはシカ科の動物の中で唯一家畜化された動物です。トナカイ牧畜は北方展開した牧畜の一形態で、ユーラシア大陸の北部、周極地方に居住する先住民たちの生業として重要な意義を有してきました。トナカイ自体が寒地適応している動物ですが、この動物を家畜として飼育する先住民たちも、高緯度寒冷地に様々な形で適応し、特異ともいえる高度な文化を築きあげてきました。そのトナカイ牧畜という生業と文化、特にロシアの先住民のそれを研究しています。現状は資源開発、都市化、少数民族化、地球温暖化といった環境変化に直面し、非常に厳しい状況に置かれているのも事実です。同時に、貴重品扱いもされるトナカイの肉、袋角(毎年生え変わる角の骨化する前の状態)から抽出される物質から精製される薬品、健康食品など、販路や産品の開発などにより、生き残りを図る努力もおこなわれています。このようなトナカイ牧畜を行う先住民の文化を現代的なコンテクストで研究しています。

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ロシア・サハ共和国オレニョク郡の冬季
トナカイ牧畜管理の光景(2013.2)

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サハ共和国オレニョク郡の夏季放牧風景(2010.8)

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ヤマル・ネネツ自治管区(西シベリア)の遊牧ネネツ人の移動キャラバン(2001.11)

総合地球環境学研究所プロジェクト「温暖化するシベリアの自然と人-水環境をはじめとする陸域生態系変化への社会の適応」(2009-2013)
科学研究費補助金「極北先住民の生存・共生システムとしてのトナカイ牧畜文化の研究」(2007-2009)

氷下漁研究

氷下漁とは、氷結した湖沼や河川で氷に穴をあけて網を仕掛けたり、定置式の漁具や仕掛けを設置して漁獲を行う漁法です。比較的規模の大きい網漁に関しては、本邦では網の種類により、刺網、曳網、ふくべ網等が使用されてきました。漁の場所が氷の上ということで、氷上漁法という言い方もあります。この漁法は、新旧両大陸の先住民を中心に広範に展開しているようですが、その方法や範囲について体系的情報がありません。少なくともシベリアの先住民や中国では現在でも行われているようです。なお、釣竿でワカサギの穴釣りをするような個人のレジャーとしての漁はとりあえず研究範囲から除外します。
日本ではどうかというと、現在では北海道のいくつかの湖沼で、氷下曳網漁などが実施されているに過ぎません。他方、かつては長野県の諏訪湖や干拓前の秋田県八郎潟などで盛んに実施されていた漁法ですが、前者は汚染や温暖化により、後者は干拓という物理的制約により、廃絶に至りました。氷が張ることを前提にするこの漁法は、気温や氷厚という環境的条件に大きく依存します。そのような環境と生業の関係や、氷下漁という特異な漁法の現代的意味の探求という地域文化活性化というコンテクストでこの漁法を調査してみようというものです。

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干拓前の八郎潟での氷下漁風景
(昭和35年2月5日付秋田魁新報)

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西シベリアの牧畜民ネネツ人による氷下刺網漁(2001.11)

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諏訪湖でかつて見られた定置式のヤッカ漁(1958年)